
[TDCユーザーインタビュー Vol.1]
圧電デバイスの高度化を支えるTDCの金属箔研磨技術
TDCのお客様の声をご紹介するTDC ユーザーインタビュー。
今回は、当社の10年来のお得意様である『仙台スマートマシーンズ』代表取締役 桑野博喜さんに、同社のコア技術についてお話をお伺いしました。
仙台スマートマシーンズでは、圧電技術を用いたエナジーハーベスタデバイスを開発されており、その基本素材としてTDCの鏡面研磨金属箔をご使用いただいております。
【仙台スマートマシーンズ株式会社】
仙台スマートマシーンズ(SSM)は、東北大学桑野研究室の研究成果である圧電(※)エナジーハーベスタデバイスを事業化する目的で、2016年に設立された東北大学発ベンチャー。同社は、圧電技術を用いて身の回りの微小振動を活用するデバイスの開発に成功。「電力供給不要」の未来の電力として、注目を集めている。
※圧電:応力を電気に、電気を応力に変える現象のこと。
【桑野博喜さん】
仙台スマートマシーンズ株式会社 代表取締役
【ご利用いただいているTDCの技術】
・精密鏡面フォイル/長尺金属箔精密ポリッシング
Contents
電池不要の新たな電力供給手段
「エナジーハーベスタデバイス」を開発

Q. 仙台スマートマシーンズさんの事業概要を教えてください。
当社では、圧電変換技術を用いた、効果的で実用的なエナジーハーベスタやセンサを開発しています。この圧電変換技術には、新規に開発した圧電薄膜を使用しています。
Q. エナジーハーベスタとはどんなものですか?
エナジーハーベスタは環境発電とも呼ばれているもので、光や振動など身の回りの微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力に変換する技術のことです。エナジーハーベスティングとも言われますが、IoT分野などでの活用が期待されています。
IoT分野などにおいて、圧力、ゆがみ、温度などをモニターする無線センサネットワークは、今後も普及していくと考えられます。センシングをはじめとして、リアルモニタリングデータをさまざまな場面で活用することこそが、DX(デジタルトランスフォーメーション)だと言い換えることもできますね。
自動化・省力化の観点でもそのような無線センサネットワークの広がりを期待したいところですが、これに対して最大の課題となるのが電力供給だと言えます。
将来的に、無線通信装置や一つひとつのセンサデバイスの消費電力は削減されていくと考えられるものの、それでも電池を搭載する以上は寿命からは逃れられず、いずれ交換する必要があります。膨大な数のセンサノードがネットワークで繋がるこれからのIoT分野において、電池の交換は費用的にも時間的にも非現実的な作業となるでしょう。

そこで当社で開発したのが、電池不要の新しい電力供給手段となるエナジーハーベスタデバイスです。これらのデバイスに用いている圧電薄膜は、センサとしても大変優れた特性を持っており、新しいセンサの開発も同時に行っています。
Q. その圧電薄膜も新しく開発されたそうですね。
はい、もともと私は東北大学でMEMS技術の研究とエナジーハーベスタデバイスの開発を行ってきました。具体的にいうと、MEMSの技術を用いた、ステンレス箔とAlN(窒化アルミニウム)で構成されるスプリング構造の圧電デバイスです。
実験によって、当社のエナジーハーベスタデバイスが、自動車、鉄道、工業プラント、工場などのような過酷な振動環境下においても信頼性が高く安定して作動していることが確認されています。
独自開発の圧電薄膜により世界最高値の発電能力を達成
Q. 他社製品と異なる強みは何でしょうか?
ひとつ目は【発電効率】です。
圧力によって発電を可能にする圧電材料のなかでも、仙台スマートマシーンズではAlNにMg(マグネシウム)、Hf(フッ化水素)をドープ(※)した独自の結晶構造である圧電薄膜MgHfAl-Nの製造に成功しており、これによって世界最高値の発電能力(FoM=Figure of Merit)を達成しました。
※ドープ:少量の不純物を添加して、結晶の物性を変化させること。

上図/SSMが開発した独自の結晶構造「圧電薄膜MgHfAl-N」と、その他の圧電薄膜のFoM値比較 下図/FoMの定義(この図はSi基板を用いた時の数値)
さらには【ロバスト性】(※)も重要な特徴です。
仙台スマートマシーンズのエナジーハーベスタデバイスは、SUS(ステンレススチール)上に形成されています。一般的に基板として使用されるSi(シリコン)と比較して、SUSの衝撃エネルギー吸収特性は良好で、その耐久性も確実に優れているんですね。SUSを基本素材としたことで過酷な振動状況下においても応力破壊することなく、安定して作動します。
(※)外乱や不確定な変動に対して、システムや機械が影響されにくい性質。
このデバイス構造において重要な役割を果たしているのが、TDCさんの研磨技術であり、鏡面研磨された金属箔です。大学で研究していた段階では、実験用の材料が必要だったのですが、金属箔のテストピースを1点から購入でき大変便利でした。その後開発が進むごとに金属箔の使用量は増えてますけれど、高品質な製品を安定して供給してもらい、順調に製造を進めることができています。

100メートル以上の長尺箔に対し、Ra1.5 nm, Rz10 nmを実現します。
Q. 今後について教えてください。
仙台スマートマシーンズという会社は、大学での研究成果をより多くの方に使っていただくことを目的に創業しました。エナジーハーベスタは技術としては既に確立しており、多くの実験データも整っています。新しいセンサについてはさらなる研究開発を進めていく予定です。
今後は、無線センサネットワーク環境での電力供給に課題をお持ちで、まだ我々の技術をご存じない方たちにソリューションをお届けするため、まずはみなさんに知っていただけるような活動に取り組んでまいります。
無線ネットワーク環境での電力供給や、DXの可能性を広げるエナジーハーベストデバイスとセンサ。
仙台スマートマシーンズの技術が今後どのように活用されていくのかとても楽しみです。
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