ナノテラス

【ナノテラス Vol.2】
宮城に生まれる産学官の出会いの場

今年度(2024年)の運用開始に向け、東北大学・青葉山新キャンパスにて整備が進んでいるナノテラス(NanoTerasu)。さまざまな物質を電子レベルで解析できる放射光施設として、国内外から注目を集めています。
私たちティ・ディ・シーは、東北大学多元物質科学研究所が主催する「多元研イノベーションエクスチェンジ」に2017年から毎年参加しており、ここでの出会いがナノテラスの活用を考えるきっかけとなりました。

【参照】
NanoTerasu公式サイト

●まなびの杜
「NanoTerasu(ナノテラス)への期待」

今回は、私たちティ・ディ・シーが、ナノテラスと関わりを持つようになった経緯を、代表の赤羽がお話します。

ナノテラスがどんな施設なのか?をご紹介した記事もございますので、ぜひご参照ください。
>>「次世代放射光施設「ナノテラス」とは?――ナノの世界から広がる可能性」

きっかけは、ドイツで見た産学官の連携

そもそもの始まりは、2015年にドイツの展示会で、ある会社と出会ったことです。その会社とは、粉砕・粉体分野の世界的トップメーカーである「ZOZ(ゾッツ)社」。そこで社長のゾッツさんとお話しているうちに意気投合して、彼らが地元ドイツで主催する「OZ」というイベントに翌年招いてもらうことになったんです。
“オズの魔法使いのように新しい魔法が起きるようなイベントにしたい”という趣旨の会で、そこにはヨーロッパはもちろん世界中から、企業や国や研究者など、いろんな方が集まっていました。

それぞれ自分たちの研究や技術を紹介するんですけど、そうすると「じゃあこういうことをやらないか?」とその場でいろんなコラボレーションが始まっていくんですね。その結果、新しい研究開発や製品に繋がっていった事例というのをそこで目の当たりにして。
ひとつひとつは優れているもののふさわしい用途が見つからないなど、いわば“日の目”を見ることがなかった技術。でも、国や組織の垣根を越え、産学官で連携することで新しいイノベーションを起こしていたんです。(ちなみにゾッツ社とは、その後現在に至るまで業務提携することとなり、そこでも面白いお話があるのですが、それはまた改めて…。)

放射光を使うとナノの世界が一目瞭然

OZというイベントを見たことで、私自身とても刺激になり、こういうことって私たちの地元である宮城でもきっと起きると思ったんです。早速、宮城県庁や東北大学に声掛けをさせていただいたところ、ぜひやろうと言っていただきました。でもゼロから立ち上げるのはなかなか大変だからということで、東北大が毎年主催していた「多元研イノベーションエクスチェンジ」というシンポジウムを活用させていただくことに。もともとは大学などが技術を発表する場であったこのシンポジウムを、「OZ」のように産学官が出会える場となることを目指し、2017年12月に開きました。

シンポジウムではいろいろな企業の方や大学の先生たちが自分たちの紹介や技術の発表をして、 弊社も研磨技術の紹介をさせていただきました。その時声を掛けてくださったのが、東北大学教授で、現在ナノテラスの運営を国や大学と共に行う「国際放射光イノベーション・スマート研究センター所長」を務めていらっしゃる高田昌樹先生。
その高田先生に、「ティ・ディ・シーの技術を最先端の放射光計測で高めることができるかもしれない」とおっしゃっていただいたんですね。でも、その時は「放射光を使うと言っても難しそうな話だな」と(笑)。これまでも弊社では、SPring-8(兵庫県の放射光施設)などから、テストピースのご依頼をいただいたりすることがあったので、放射光という技術があることは知ってはいたんですが、あまりピンとは来ていなかったんです。

それで言葉で説明をしても分かりづらいだろうということで、実験の手はずを高田先生が整えてくださって、それぞれ異なる材質や表面粗さのサンプルをいくつかSPring-8に送りました。
その結果が下の図です。

sample_synchrotron radiation
サンプルを放射光で計測した結果

高輝度のX線を当ててそれが反射した際の像で比較するのですが、簡単に言うと、表面がザラザラしていればたくさん反射するからX線像も拡大し、表面が平滑であればあるほど像がぼやけない。普段私たちはナノオーダーの加工を測定器でデータを取りながら行っていますけども、放射光を使えば、表面やさらにその下の層の状態までナノレベルでひと目で分かるようになる。それを実際にお見せいただいたことで「なるほど、これは新しい評価方法として私たちの研磨技術にも活かせるかもしれない」と思ったんです。

測れる限界を上げれば、作れる限界が上がる

私たちが研磨や加工をするうえでいつも考えているのは、「測れる限界が作れる限界」ということ。これは言い換えると、測定技術が非常に重要ということです。

例えば、川の上流の石と下流の石を見れば分かるように、石は流れていく過程で他の石とぶつかったりしながら表面がこすれて、角が取れていきます。つまり物と物がこすれるという研磨現象が起きていて、ティ・ディ・シーで行っているナノオーダーの研磨や加工でも、物と物をこすり合わせるというその原理は変わりません。基本的には回転する製品を押し付けて、上から圧力をかけて磨くという作業で、これは最先端の半導体技術でも同様です。

ただし、石の場合はいつその瞬間その形になるか分からない。数秒削ればナノレベルで物の形は変わっていきますが、ティ・ディ・シーではさまざまな計測技術と組み合わせて、加工しては測り、測っては加工しを繰り返して、その瞬間を逃さないということをしています。それこそが私たちの技術の真髄といえるところ。測定、すなわち可視化することによって、超精密な精度を実現している、というわけです。

だからこそ、弊社では精度の高い測定機を揃えているのですが、放射光を用いればさらに高いレベルで評価が可能になるし、特殊な用途が出てきた際にも対応できる。さらにナノテラスは物質の表面状態を計測するのに長けた「軟X線」の放射光施設なので、私たちが行う高精度の研磨加工にも相性がいい。
今後ナノテラスで継続的に実験をし、世界オンリーワンの新たな表面粗さの評価方法を作りたいというのが今目標としているところです。

――――――

ナノテラスでは、研究機関や大企業などに加え、私たちのような中小企業でも利用しやすい「コアリション」という仕組みが取り入れられており、モデルケースとしてすでに複数の企業がナノテラスの活用を始めています。

ナノテラスをハブとして、ここ宮城でさまざまなイノベーションや研究開発が盛んになっていくことを願っておりますし、ティ・ディ・シーもその一助となれるよういろいろと計画中です。

これから活動内容をご報告していく予定ですので、皆様のご参考にしていただけたらうれしいなと思っています。


関連ページ

大学・研究機関の方必見 テストピースのご相談